「熊谷なないろ食堂」の活動紹介

埼玉県内には数多くのフードパントリーが存在します1回目の「川越子ども応援パントリー」に続き、今回は熊谷市にある「熊谷なないろ食堂」を取材しました。

同団体の注目すべきポイントは子ども食堂の立ち上げを発端に活動の場を広げ、地域社会において存在感が着実にアップしているところ。 行政はもちろん、地域で事業を展開する企業や百貨店、金融機関、さらには、小中学校をも巻き込むことで、子ども食堂、フードパントリー、学習支援、フードドライブを実施しています。

熊谷なないろ食堂

行政、企業、百貨店、金融機関、
さらには学校をも巻き込み、
地域での存在感が膨らみ続けている。

子ども食堂の様子①
子ども食堂の様子②

仲間とともに、月1でスタート

「熊谷なないろ食堂」が子ども食堂(NPO法人SK人権ネット)を立ち上げたのは、20184月。当時は埼玉県内において同活動が少しずつ知られ始めた頃で、まだまだポピュラーな動きとは言えませんでした。

 代表の山口純子さんが自身の子どもが手を離れたタイミングで、NPO法人(NPO法人SK人権ネット)に入り、ボランティアさんたちとともに月1回からスタート。会場は公共施設(勤労青少年センター)を活用しました。

代表の山口純子さん

3年後には自前の食堂を整備

 始めた頃の利用者は、知り合いを中心に7、8人だったそうです。それが口コミにより少しずつ利用者が増え、立ち上げ4か月後には月2回の実施とします。調理、運搬の担い手が足りなくなり、社協でボランティアを募ると、想定以上の応募者があったといいます。子どもの貧困という社会課題が徐々に認識されようとしていた頃で、代表の山口さんは仲間とともに手応えを感じながら、地道に活動していました。

 事が大きく動いたのは、3年ほど経過した20219月。「ごはん屋なないろ食堂」の協力により、自前の食堂&拠点を持てるようになったのです。保管場所と冷蔵庫が整備されたことで、活動がしやすくなったといいます。実施頻度も月2回から週3回へと、一気に6倍に増やしています。

 こうしたがんばりは、地元に方々からも認めらえるように。お膝元の石原総代会会長の水野様から「地元に子ども食堂ができるのはうれしい」と連絡をいただき、その後も寄付金やお米などの支援をいただく関係となります。

 さらに、SAIGENグループ(産廃リサイクル関連企業)からはコラボカーの提供と多彩な継続支援、インフォーシズ(株)による「熊谷なないろ食堂通信」の制作協力など、団体関係者の熱意が各所に届き、支援者の輪をつなげていきます。

子ども食堂の外観
食糧保管場所
冷凍庫
コラボカー

ボリュームたっぷりのお弁当

 それ以降、「熊谷なないろ食堂」は、子ども食堂を月曜日、水曜日、金曜日の週3(祝日を除く)で実施。地域の子どもにおいしい食事を提供するとともに、友だちや地域の大人たちとのコミュニケーションの場としても機能しているのです。

 「熊谷なないろ食堂通信」は立ち上げ以来、出し続けている発行物なのですが、表紙を飾るのは、提供したお弁当の一例です。人参とさつまいものクリーム煮弁当、竜田のポン酢和え弁当、鶏肉とじゃがいものケチャップ炒め弁当など、提供される弁当はどれもおいしそうでボリュームたっぷりなのが、一目瞭然。しかも、手間と工夫に満ちた内容となっていて、見ると食べたくなってしまいます。利用料は、中学生以下100円、高校生以上300円、大人のみの利用500円(2026年1月現在)。毎回平均200個から220個の弁当配付を行っており、週3で利用する子どもが4割ほどいるそうです。

感謝の声を フィードバック

また、子ども食堂の実施日に併せて学習支援を食堂の近くにある「学習支援てらこや」にて月曜日、水曜日、金曜日の週3(祝日を除く)で実施しています。

 子どもたちに勉強を教えているのは、高校生、大学生、社会人のボランティアスタッフの皆さん。家庭環境などが原因で学習習慣を持たない子どもたちに勉強を教えるのは大変ですが、利用する子どもや保護者からの感謝の声を丁寧にフィードバックし、モチベーションを高められるように工夫しています。

フィードバックの様子
なないろ食堂へのメッセージ
フィードバック
ボランティアさん達へ
フィードバック
寄付や支援をしてくださるみなさんへ

フードパントリー・学習支援の展開

 子ども食堂とともに、活動のもう一つの核がフードパントリーです。こちらは毎月1回の実施で、隔月で埼玉トヨペット(株)熊谷支店から会場提供いただくとともに、現場での運営に携わるサポートスタッフも動員いただいているそうです。同社は社会貢献活動に積極的に展開する企業。2021年の秋頃、「フードパントリーを始めたいので、ノウハウやネットワークを有した団体と組んで始めたい」と同社の社会貢献課から声を掛けていただき、現在に至っています。

 フードパントリーでもこだわっているのは、お渡しする品物のボリュームです。次回までに足りなくなるようなことがないよう、50リットルのコンテナに食品や日用品の他、米・学用品・衣類など、たっぷり渡しています。

埼玉トヨペット(株)さまので社屋をお借りしてフードパントリー

学校教育の現場ともつながった

「フードドライブは、家庭で余っている食品を回収拠点に持ち寄り、地域の福祉施設や子ども食堂、生活困窮者支援団体などに寄付する活動です。自治体やスーパーマーケット、コンビニエンスストアなどが回収拠点となることが多いようですが、「熊谷なないろ食堂」では、地域内の学校にアプローチを試みました。

 2021年秋頃、代表の山口さんが学校に協力を要請。それを受けて、教育委員会の校長会で協力をお願いをしてもらったといいます。一定の共感は得られたものの、実際に取り入れるまでの動きには至りませんでした。

 その後、富士見中学校の校長先生とお話しする機会を得られそうです。活動の意図を説明すると、「熊谷なないろ食堂でお世話になっている生徒がいる」といった経緯もあり、積極的に動いていただけることに。同校で実践を前向きに捉え、他校にもひろめていただきました。それをきっかけに、小・中学校におけるフードドライブの輪がつながり、現在では市内30校で実践されています。

学校でのフードドライブ

自ら足を運び、熱意を伝えた

 この一件で山口さんが感じたのは、「協力要請のアプローチは、当事者が自ら足を運び、熱意を伝えること大切さ」です。彼女は教育現場でのフードドライブの試みは、食品などの物資の調達だけでなく、子どもたちが「誰かの役に立つことの意義を学ぶ機会」になると考えていました。思いを直接伝えることで、開ける道があるのです。

 回収物の保管場所の確保、生徒主体で地域連携を進める際の難しさ、広報力の不足など、実践するにあたっては、学校としてもいくつかのハードルがありました。生徒も最初は「ただ食品を集める活動」という認識しかなかったようです。

 そこで、求めに応じる形で山口さんが学校へ出前授業に出向き、子ども食堂やフードドライブの役割、フードロスなどについて説明すると、「自分たちの行動が誰かの助けになる」「家庭の“もったいない”が誰かの“ありがとう”につながる」との実感がひろがっていったといいます

出前授業の様子

教育的にも意義のある活動

学校側の受け止め方は、大変肯定的でした。忙しい先生方の負担を増やすことにもなりかねない取り組みではあるのですが、その負担以上に教育的な意義があると評価いただいたのです。

 そこには様々なポイントがありますが、生徒が生活困窮やフードロスといった“本物の課題”に向き合うことの価値をご指摘いただいています。地域団体、企業、保育園や公共施設との連携を求められ、自分が動かないと物事が進まない、そして取り組みの成果が社会に還元される実感は、教室内では再現できないリアルな経験となるのです。その結果、自己効力感、社会参画意識、地域への肯定的な関係性が育まれるといいます。

富士見中学校におけるフードドライブ

■頻度

  • ・年1回の実施
  • ・総合的な学習のテーマや委員会活動に応じて、学年、学級、委員会単位で随時実施することもある

■設置場所

  • 校内(職員室前)
  • 学校区内の保育園、児童館、市役所などの公共施設
  • 商業施設(ベルク熊谷銀座店)

■告知方法

  • ・生徒が作成したポスター掲示、学校ホームページへの掲載
  • ・チラシ配布、店内放送やのぼり旗
  • ・生徒が企画書を持参し、協力団体へ説明

コラム「八木橋百貨店フードドライブ」

「熊谷なないろ食堂」は、地域の老舗百貨店である「八木橋百貨店」の協力を得て、店内売り場にフードドライブBOXを常設しています。百貨店にとって売り場は、商品を売るだけでなく、お客様の心をつかみ感動を生み出す大切な場所です。

 今回の取材では、代表の山口さんからフードドライブ店内導入の提案を受け、その実現に向けて尽力いただいた八木橋百貨店・経営戦略・顧客戦略・販促・企画係長の中島朋子様にインタビューを実施しました。

八木橋百貨店広報部
中島朋子さんへのインタビュー

 フードドライブBOX店内設置の提案をどのように受け取りましたか。

中島 山口さんの熱意を感じました。スーパーマーケットなどで見たことがありましたから、うちでも何かできないかと、率直に思いました。社会貢献は、身近なところで取り組みたいという思いもありました。

 最初は期間限定での実施でしたね。

中島 20248月にイベントに併設する形でフードドライブ開催。同年12月に階段ギャラリー展示「熊谷なないろ食堂活動展」に合わせて開催しました。その反響は大きく、熊谷経済新聞に取り上げてもらいました。

 その後、山口さんから常設の提案がありました。

中島 常設となると、売り場担当など他部署ともさまざまな調整が必要となります。設置場所を自分なりに検討し、限られたスペースをうまく活用できるよう、社内で検討してもらうことに。最終的に、地下1階食品売り場の階段脇になりました。

 お客様の反応はいかがでしたか。寄贈してもらえましたか。

中島 当初は少なかったですが、フードドライブへの理解が深まるにつれて徐々に品物が増えていきました。少し気分が高まる百貨店では、寄贈する気持ちが起こりやすいのかもしれません。不用品ではなく、いいものが入っていることが多いです。お客様の善意を感じます。

 取り組みの手応えはいかがですか。

中島 気付いたのは、地域や子どものために何かやりたいと感じていても、どうすればいいかわからないという方が結構いらっしゃるということ。

八木橋百貨店は、地域経済の活性化や地域社会への貢献を重視しています。お客様の好みや関心を先取りし、売り場で提案することが、私たちの役割です。そうした意味で、「熊谷なないろ食堂」さんとの連携は大変意義がありました。

八木橋百貨店外観             
八木橋百貨店地下1階・フードドライブコーナー
八木橋百貨店8階・熊谷なないろ食堂通信広報コーナー              
八木橋百貨店3階 クマコレ

”礼を尽くし、あたりまえのことをしっかりやる”

フードドライブは、市内12の金融機関で組織する「熊谷金融連絡会」でも実践いただき、各機関の従業員やその家族から寄付品を募り、50リットルのコンテナ約30箱分を集めました。

そのほかにも、ファミリーマートやベルクの一部店舗で常設されています。

 この取材を通して浮かび上がったのは、「熊谷なないろ食堂」による子ども食堂、フードパントリー、学習支援、フードドライブといった取り組みが、実に様々な協力者により支えられていることです。

 これらの活動は、今や熊谷エリアのインフラと言えるほどです。活動の必要性を論理的かつ熱意をもって訴え、それぞれの成果について詳細なフィードバックを行う誠実な姿勢が、多様な協力者および地域社会全体の巻き込みにつながっているようです。