川越子ども応援パントリーの活動紹介

埼玉県内には数多くのフードパントリーが存在します。

どの団体もそれぞれのやり方で熱心に活動しているとことばかりなのですが、他の団体がどんな意思により、どのような活動をしているかは、意外とご存知ないのではないでしょうか。

そこで当記事では、活発でユニークな活動を展開している団体を訪問、取材し、フードパントリーの実際の様子とともに、そこに関わる人の思いを紹介します。

川越子ども応援パントリー

遊んで、学んで、人生は豊かになる。
そのやり方は一人ひとり違う。

コロナ感染症で厳しさ顕在化

取材先に選んだ団体は、川越市にあるフードパントリー「川越子ども応援パントリー」

コロナ感染症が拡大し、「休校で食費が増えて家計が苦しい」、「子どもの世話がしんどい」… そんな声に応えようと、2020年3月、コロナ感染症による休校開始からひと月以内に、3回の緊急パントリーを実施。以降4月より毎月1回(奇数月:最明寺<小ヶ谷>、偶数月:本応寺<石原町>)フードパントリーを行っています。

2024年10月からは2か所のお寺に加え、隔月で川越新河岸メモリードホール(扇河岸)での活動もスタート。同地区からいずれかのお寺に自転車などで通うのは大変なことから、利用者さんの負担軽減を考え、拠点を増やしたそうです。
支援対象は主にひとり親で、「児童扶養手当」受給家庭を中心に160家庭、家族構成員総数約500名(2023年12月現在)にご支援しています。

本応寺

最明寺

ボランティアの皆さんも手慣れたもので、手際よく作業が進みます。

フードパントリーは午後5時からスタートしました。平日ですので、学校帰りの子どもを連れ立って訪れるお母さんの姿が多く見られます。お米やミネラルウォーターなどの配布もあり、結構な重さになることから、一人で運ぶには重すぎるということもあるでしょう。
そして、陳列棚の一角には本日の目玉食品であるズワイガニの缶詰も、数が限られているため、スタッフとのジャンケンで勝った人がもらえるルールにしてあるのですが、ゲーム性のある展開に利用者さんの笑顔がこぼれます。

楽しみながら食品選び

お伺いしたのは、川越新河岸メモリードホールで開催されたフードパントリー。 普段は葬儀場として使われていますが、ご好意により利用させていただいているそうです。
エアコンが完備された快適なスペースですが、当日の準備作業は大変。食品を運び入れる際に、建物にキズや汚れを付かないいように、しっかりと養生をして臨むことになります。
運び入れた食品は、ご利用者が求めるものを選びやすいよう商品ごとに分けて陳列。家族の人数ごとにいくつまでもらっていいかがわかる説明札が掲げられています。

好きなこと、得意なことを見つける。

同団体のもう一つの活動が「子ども若者支援」です。
フードパントリー利用家庭を対象として始まった活動は、学習支援・子どもの居場所「てらこや」(最明寺教室:毎週月曜日。本応寺教室:毎週木曜日。高階ユースプレイス:毎週火曜日)へと活動の幅をひろげます。
2024年5月から始めたのが「サタデークラブ」(不定期の土日祝日)。物事の成り立ちを学ぶのが目的で、パンク修理や網戸・家具の修理などを学んでいきます。
勉強があまり好きでないという子どもが、得意なこと、好きなことを見つけ、社会の中でがんばるためのチカラと心構えを身に付けます。

この日も、フードパントリーとは別に「純喫茶メモリード」をオープン。
ここに通う子どもたちといっしょに、料理(この日はカレーでした)を作り、配膳し、フードパントリー利用者にふるまいます。
このカフェ空間は、パントリー利用者さんとの交流を促すとともに、料理好き、もてなし好きな子どもに活躍の場を与えているのです。

A君は料理を作ることが大好き

毎回1番乗りして、率先して調理を手伝ってくれます。

自然界の法則に調和した生活

団体代表の時野閏(ときの・じゅん)さんには、訪問時に軽くご挨拶ができたのですが、その後、なかなか姿を見せてくれません。見かけたと思ったら目配せして、再びどこかに行ってしまいます。それもそのはずで、フードパントリーの準備から利用者への対応、ボランティアへの声掛け、子どもと一緒にカレー作りと、まさにフル稼働。ようやく時間を見つけてお話しすることができました。

いろいろなアイデアで活動の幅を広げてきた「川越子ども応援パントリー」ですが、その仕掛け人である時野さんには、「人の生き方・暮らし方」に対するある思いがあるようです。
それは「人間の暮らし方が、自然なものからどんどん遠ざかっていること」に対する危惧だといいます。

時野さんは、川越子ども応援パントリー代表ですが、マクロビオティックの公認インストラクターでもあります。マクロビオティックというと、伝統食などによる食事法の一つというふうに理解されがちですが、自然界の法則に調和した生活をすることによって健康と幸せを得る「生き方」だと、彼はひろく捉えています。

時野さんは、固定観念にとらわれず行動する方。
お話をお伺いし、そんな印象を受けました。

 一人ひとりの人生を輝かせたい

「川越子ども応援パントリー」における活動も、こうした考え方が元となり、具体化され、発信されているのです。例えば、食べることは動物である人間にとって生きるための源泉ですから、フードパントリー活動は欠かせません。

お腹がいっぱいなったら、次は勉強です。

長い人生をより良く生きていくために勉強に励んでもらい高校受験というイベントにもしっかり対応します。勉強が苦手な子どもには、視点を変えた方法を用意しています。それが「高階ユースプレイス」で行っている子どもたちと料理を作って食べる活動や、「サタデークラブ」での物事の道理を学ぶ時間です。

さらに、みんなで大きな絵を描いて、アートを体験する取り組みも実施しました。社会の仕組みにとらわれ過ぎず、一生懸命働いて、段取りを学んで、人に喜んでもらう楽しみを見つければ、きっとその子の人生は豊かになります。

アート三昧

絵を描いたり、粘土細工に挑戦したり、子どもたちがやりたい方法で、ものづくりを体験しました 。

時野さんはミュージシャンでもあります

イベント時には、ギターを奏で、歌を歌います。自然体で、遊び心のあるこうした姿が、子どもやそのご家族との距離を縮めるだけでなく、「もっと自由に楽しく生きていいんだよ」というメッセージになっています。

自由闊達で明るいキャラクターが彼の持ち味となり、
多くの人の共感を集めているように感じます。

トライアンドエラーの連続

時野さんのお話のなかで、「生きづらさを感じている子どもたちに、社会のあたたかさを感じてもらうことは大切」という言葉が、特に印象に残りました。
この場所に来る子どもは、様々な事情から満ち足りた毎日を送ることができていないのかもしれません。そうした状況を理解し、寄り添い、サポートしてくれる体制が地域社会に存在していることを知ってもらえば、生きていく自信にもつながり、子どもが道を間違えずに成長できるようになるというのです。とはいえ、実際の活動は簡単にはいかないようです。悩みやハンデー、抱えている事情は一人ひとり違いますから、「いろんな子をいろんな形で見る」のが自分たちの活動ということになるといいます。そして、その子にどういったアプローチをすればいいかは、トライアンドエラーの連続だといいます。

 左の女性は事務局長の柿崎倫美さん

  時野さんとは、市民団体(保育)の
  活動中に知り合い、意気投合。
「川越子ども応援パントリー」を立ち
  上げました。

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